新ゼミ生課題作品:エッセイ「今までで一番笑った経験」10
駒澤大学GMS学部山口ゼミでは、2008年度ゼミ生募集に際し、課題作品の提出を求 めました。ここでは提出作品を順番にご紹介しています。エッセイ部門の課題は「今までで一番笑った経験」です。これは名無し9号さんの応募作品です。
(担当山口)
これまでの人生で一番笑った経験
これはほんの少し前のエピソードである。水曜日の予定と言ったら、私にとっては1限目から4限目までびっしり入っている日であるから、かなり体にくると言えばそうである。しかし、その日の4限目のオーラルコミニュケーションが休講になったので、3限で帰れることになった。事前にその事が分かっていたので、その日は、俗に彼氏とか呼ばれる人物と一緒に帰る事にしようと思っていた。彼の大学の最寄駅である四ツ谷へ行って、彼と合流し、中央線快速に乗ってこの後どうしようかと話し合っている時であった。
「秋葉行こう」
そんな私の一言にきょとんとする彼。
「まじで」
私たちは世間で言う「ヲタ」である。彼はアニメ・漫画ヲタであり、mp3にもアニメソングしか入っていないという筋金入りのオタクで、私は最近市民権を少しずつ得てきた“腐女子”と呼ばれる部類である。私は特に秋葉原に行って何かを物色したりしたことがなかったので、秋葉原の雰囲気にあたりに行きたかったのだ。
中央線から総武線に乗り換えて秋葉原に着いた。秋葉原はいろいろな路線の乗り換えに使われたりするためサラリーマンの姿もちらほら見えたが、ホームに降りるとやはり、他の山手線の駅とはまったく違う雰囲気を感じる。お昼を食べていなかったので、ラーメン屋に付き合わせたりしながら、街をふらふら散歩程度に歩いていた。
私が思っていた以上に彼は秋葉原に詳しく、道という道を熟知しているようであった。私はその時知らなかったのだが、ツクモ電気という所に立ち止まって「掘り出し物探してんの」などと言いながらごそごそ探し出す彼。ここで私は当然そんな彼を見て引いたりはしない。こんな所で引いていたら、彼の場合キリがない。
そして買い物が終わって、今度は私の“お目当て”の漫画が置いてあるお店へ行った。その日のほんの一週間前ほど、池袋の乙女ロードへ友達と遊びに行っていたので、そこの女性たちの割合を考えると、随分少ないなと思いつつ、自由に好きなだけ物色することができた。それにしても、ここに来ると、麻生が言っていた通りの、日本のオタク文化なるものは、これからも成長を続けるであろうと感じさせる。アメコミ等の絵を見た後だと、いかに日本の漫画のクオリティが高いか、というのが分かる。
そしてガチャポンをやってみたり、自分の好きなアニメのポスターなどを買って大満足して散策を続けていたら、急にトイレに行きたくなった。1日2回程度にしか行かない私には、これを逃すとまずい。というのも、我慢する癖があるので、これまでに2回ほど膀胱炎になったことがある。人生で2回もこれになる人も、よほど忙しい新聞記者や探偵くらいしか聞いたことがないが…。
と、そんなどうでもいい過去は置いておいて、トイレを探しにヨドバシカメラに入った。秋葉原の電器屋ともあって1階からそれはそれはものすごい品揃えである。デジカメなど、今や一家に一台あるようになったモノがそのきらきらしたボディを光らせて客を迎え入れている。トイレの事を少し忘れて、そんな電化製品たちを見た。
着々と上の階へ登っていって、トイレのある階へ着いた。そこは通販にありそうな物が置いてある階で、テレビで良く見る物が置いてある。またトイレの事を少し忘れて、いろんなものを舐めて回るようにして歩いた。しかし、そろそろトイレに真剣に行きたくなったので、店員さんにトイレの場所を聞きつつ、その方面へ移動する。
するとそこにはロデオボーイが10台ほど奇麗な配置で並べてあった。そして、目の前には前列ど真ん中のロデオボーイに乗るスーツ姿の50代サラリーマン風男性。屹立とした背中と、揺れるネクタイ。彼はロデオボーイを楽しむというよりは、本気で吟味しているように見えた。
そうこれはロデリーマンなのだ。
彼は会社で疲れた体に鞭を打つかの如くロデオボーイでまた筋肉を酷使している。なんてシュールなんだ。なんてかっこいいんだロデリーマン。あろうことか、私たちの視界にはヒトと呼ばれるのは彼しか居なかった。静寂という空間に包まれたロデリーマンと、ロデオボーイの機械的な音。目の前に飛び込んだ光景に、本気で「吹いた」。コーヒー吹いた。
しかしさすがに彼を目の前にして思いっきり笑う事は出来ない。彼が目に入ってから、笑ってもばれない距離まで歩くのに7~8メートルだったろうか。どれだけ長い距離に感じられたか計りしれない。しかし私たちは必死にこらえて前を目指す。もちろん彼の真横を通る瞬間もあった。ツライ。本当にツライ。
目指すトイレに入る前に腹を抱えて笑った事は言うまでもない。
ついでに出た後も笑ってしまった。
来た道を戻っていくと彼はもうそこには居なかった。
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出ましたねヲタカミングアウト。しかも「腐」系とは。「俗に彼氏とか呼ばれる人物」とか、文章もなんだかそれっぽいですね。当ゼミも多様な人材が集まっていることを改めて認識しました。こち駒のそっち系コンテンツの充実に尽力していただきたいもの。これはそんなヲタの皆様の聖地、秋葉原でのエピソードです。「腐」の皆様には池袋のほうが聖地なのかもしれませんが、カップルとなると秋葉原のほうがいいのでしょうか。アキバの「道という道を熟知している」彼氏も、頼もしい限りです。
勝手ながら、一段落が長かったので、いくつか切ってみました。しかしなかなか文章うまいですね。今回の応募作品のエッセイ中ではトップクラスかと思います。「ロデリーマン」というネーミングもなかなか。なんというか、映像が目に浮かびます。さらに、最後の文章が秀逸。余韻が残りますね。ロデリーマンの日常。ロデリーマンの職場。ロデリーマンの家族。かばんの中にはきっと文庫本が入ってますね。いや、秋葉原という土地柄から考えれば、もしかして筋金入りのラノベファンかも!?馬に乗る人が出てくる話なんてあったっけ?うーん詳しくないんですが、たとえばこのあたりとか?
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