« ゆるらじ 第13回 | トップページ | 「スイッチオンプロジェクト」動画を公開しました »

2009/09/08

【こち駒ブックレビュー】博士の愛した数式【本屋大賞のススメ~其の壱~】

秋が近付いてきてだんだん暑さも和らぎ、すごしやすくなってきました。

秋といえば「読書の秋」。

読書週間もこの季節に設定され、10月27日の読書週間開始日は「文字・活字文化の日」にもなっています。

ということで、こち駒でも皆様の読書週間ならぬ「読書習慣」を応援するために、ブックレビューをはじめることにしました。

ただゼミ生おススメの本を紹介するだけではつまらないので、テーマに沿ったレビューをしていこうと思います。

そして記念すべき最初のテーマは「本屋大賞」です。

まずは、本屋大賞について少しご説明しましょう。
本屋大賞をなぜ薦めるのか。それは本屋大賞の選考資格を持つ人が「書店員であること」が一番の理由です。
芥川賞や直木賞などの有名文学賞では、高名な作家さんが賞の選考をしています。
そのため、選考基準は「純粋な文学としての素晴らしさ」になり、どうしても一般の人には読みにくかったり、敷居が高いんじゃないか?という印象を受けてしまいます。
その点、本屋大賞は全国の書店員が選考をするので、自然と「みんなに一番読んでもらいたい本」が大賞に選ばれるのです。
その証拠として、本屋大賞を受賞あるいはノミネートされた作品のほとんどがのちにメディアミックス展開され、多くの人々に愛されています。
そのため、本屋大賞は私たちのいちばん身近にある文学賞と言えるのです。

そして、本屋大賞の記念すべき第1回大賞受賞作品が今回ご紹介する「博士の愛した数式」です。

「博士の愛した数式」は、事故にあい記憶が80分しか持たなくなってしまった数学者の「博士」と、彼のもとで家政婦として働き始めた「私」とその息子「ルート」の交流を描いた作品です。
3人以外の登場人物はほとんどなく、「私」の語りによって物語は進みます。

この本にはお勧めポイントが3つあります。

1つ目は「数学」です。
この本は、タイトルが示す通り、数学の話を物語の重要な軸にしていて、フェルマーの最終定理やアルティン予想といった難解な言葉がたくさん出てきます。
数学が苦手な人には読みにくいんじゃないか?と思うかもしれませんが、この物語の中ではそういった数学の話がまったく邪魔にならず、むしろ読んでいくうちにその存在が心地よく思えてくるのです。
数学は博士・私・ルートをつなぐ唯一の糸として物語を引っ張ってくれます。だからといって出しゃばるようなことはなく、丁度いい位置に座っています。
おかげで、数学が苦手な私でもすんなりと読むことができました(内容を理解できたかは別ですが。笑)。

2つ目は「博士の人柄」です。
物語に登場した時点での博士の年齢は64歳。17年前の交通事故での負傷が原因で、その時点からの記憶が80分しか進まなくなっています。
つまり、事故にあった47歳までの記憶は蓄積されても、それ以降の記憶は蓄積されていかないのです。
ただ、47歳までの記憶はあるので、博士は十分に人間として形成されています。
普段は1日のうちのほとんどの時間を数学雑誌の懸賞問題を解くためや、興味を持った数字を数学的に分解していくための時間に費やしています。
博士は書斎にこもって「考えている」時間を邪魔されることを何よりも嫌います。
数学以外には無頓着で服も3種類の背広しか持っていません。
そんな博士も、唯一小さな子供だけには無償の愛を注ぎます。
普段は考えている間に話しかけられるのを嫌うのに、子供相手にはすぐに考えるのをやめ、無限の時間を注ぎます。
博士の中で子供はどんな状況でも守られ、愛される存在でなければならないのです。
博士の人柄を分析していくだけでもこの本の魅力を十分に堪能できるかもしれません。

そして3つ目は、「物語の温かさ」です。
この物語は全体として静かに進んでいきます。登場する3人が穏やかな性格だからかもしれません。
そのためちょっとしたことが大事件のように扱われたりしますが、そのたびに3人は絆を深めていきます。
しかし、問題は博士の記憶です。
「私」と「ルート」は博士のことを覚えていても、博士は一晩たつと二人のことを忘れてしまいます。
毎日「私」は初対面の家政婦として博士の家に行き、初対面の挨拶をします。
「ルート」も同じように初対面の子供として博士の家に遊びに行きます。
普通ならそれが面倒になり、挨拶など省いてしまうかもしれません(実際にトラブルで過去に9人の家政婦が解雇されているようです)。
しかし、「私」も「ルート」も決して面倒なそぶりを見せず、むしろ博士を気遣って自分たちなりに博士との接し方を模索していきます。
そして博士も「新しい家政婦さんとその息子ルート」というメモを用意し、80分という限られた時間の中で心を開いてくれます。
そして博士の語る「美しい数学」が3人をつないでいき、物語を温かく包み込んでくれるのです。

以上が私の思う物語のポイントです。

以下読後の感想。

小川洋子さんの最高傑作と位置付けられているだけあって、物語の構成や温かな読後感はさすがです。
最初は物語の設定が突拍子もなく見えるかもしれませんが、全く気になりません。
むしろ読み直す頃には当然のことのように思えてきます。これも作者の筆力がなせるところかもしれません。
数学の話もがちがちではなく、柔らかさや親しみやすさを持っていて、話の内容が理解できなくても美しさはわかるのではないでしょうか。
読み終わった後にちょっと前向きな気持ちになれる「博士の愛した数式」。
みなさんもぜひ秋の夜長に読んでみてください。

また、この物語は本屋大賞受賞後に映画化もされています。
「博士」役に寺尾聡さん、「私」役に深津絵里さん、「ルート」役には齊藤隆成さんという豪華なキャストです。
本は苦手だけど映画なら、という方も是非。

Auther:くろたん


|

« ゆるらじ 第13回 | トップページ | 「スイッチオンプロジェクト」動画を公開しました »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【こち駒ブックレビュー】博士の愛した数式【本屋大賞のススメ~其の壱~】:

« ゆるらじ 第13回 | トップページ | 「スイッチオンプロジェクト」動画を公開しました »