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2009/11/23

【こち駒ブックレビュー】死神の精度【本屋大賞のススメ~其の参~】

11月に入って急に寒くなってきましたね。

と思えば暖かい日があったりするのですが、なにはともあれそろそろ冬に入ってきました。

読書の秋、はもう終わりかもしれませんが、こち駒ブックレビューはまだまだ続きます。

ここまで本屋大賞の大賞受賞作品を紹介してきましたが、何も大賞だけが良い作品というわけではありません。

ノミネートされた作品はどれも素晴らしいものばかりです。

ということで、「本屋大賞のススメ」3作品目は第3回大賞ノミネート作品、伊坂幸太郎さんの短編集、「死神の精度」です。

~あらすじ~
千葉は、「調査部」に所属する死神である。
彼の仕事は、対象となる人間を7日間調査し、その人物の死について「可」もしくは「見送り」の判断をし、「可」とした場合は8日目にその人物の死を見届ける、というもの。
対象となる人物と会話をし、空き時間にはCDショップの試聴機で〈ミュージック〉を楽しむ。
他の死神がきちんと仕事をしない中で、千葉は「少しは真面目に判断する」方だと言う。
苦情処理の仕事をしている冴えないOLや人を殺してしまった若者、1人で美容室を営む老女など、6人の「死」を死神・千葉が淡々と調査する。

第5回本屋大賞において「ゴールデンスランバー」で大賞を受賞している伊坂さんですが、実は第1回から第4回までの本屋大賞にも作品がノミネートされています。
満を持しての大賞受賞となったわけですが、やはりその他のノミネート作品も素晴らしい作品ばかりです。
伊坂さんの作品の特徴として、無駄のないスリムな文体と、登場人物の軽妙洒脱な会話という2つのキーワードがあります。
「死神の精度」もその特徴が存分にでた作品となっています。
読みやすいすっきりとした文章は物語にするっと入り込めますし、一見するとかみ合っていないように見える会話も、よく思い出してみると実は私たちも日常で繰り返しているのです。

そんな「妙なリアリティ」を持ったこの本のもうひとつの特徴は、「非日常から見た日常のおかしさ」という点です。
主人公の千葉は、人間の死を調査する死神として人間界にやってきます。
そして、対象となる人物に接触しやすい容姿に姿を変え、「情報部」からの情報を基に死を実行しても良いかを調査します。
しかし、千葉は人間の姿はしていても、あくまで死神です。
彼には理解できない人間の行動が数多くあったり、何気ない仕草のように見えても、千葉から見れば少し不思議に見えていて、実はそれが物語の重要な伏線になっている、という場面が幾つかあります。

隣のテーブルでは、仲の良さそうな男女が向かい合って食事をしている。女が、「お腹一杯でもう食べられない」と腹を撫でながら、困惑と媚びの混じった表情で言うと、向い側の男が、「いいよ、僕が食べてあげるよ」と張り切った声を出した。女が、「優しいね、ありがとう」と嬉しそうに礼を口にしたが、どうして食事を分け与えた側が喜んでいるのか、私には理解できなかった。(第一章「死神の精度」)
「だって、凄く声が響きましたから」真由子は、その時の驚きを表現するつもりなのか、胸に手を当てていた。仰々しい、と言えば仰々しい仕草だ。(第三章「吹雪に死神」)
昨晩の夕食時、鶏肉の香草焼きが出たが、それが運ばれてきた時に真由子が、私に、「この香草焼きって苦手なんです。食べてくれませんか?」と囁いてきたのだった。その言い方は丁寧な依頼のようだったが、裏側には、自分の頼みごとが断られるわけがない、という確信じみたものも隠れていて、私は好ましくは感じなかった。 (第三章「吹雪に死神」)

最初のくだりは、カップルの良くあるような場面。女性の残した食事を男性が食べてあげる、というものですが、千葉からすると「食べものを分けてもらった方が礼を言うべきなんじゃないか」という気持ちのようです。
下の二つは真由子という女性の言葉やしぐさに違和感を感じる場面です。芝居じみている(ブリっ子ですね)ところが気になっているようで、これは物語の結末を読み解く上で重要な要素となっています。

些細なことのようですが、これが物語のいたるところにちりばめられていることと、「死神目線」という一種のフィルターを通すことによって、だんだんと私たちの中の日常が非日常のように浮き上がってくるのです。
心理描写や台詞回しで少しずつ物語に惹きこんでいく。伊坂さんの筆力がうかがえます。

そして、もうひとつ、伊坂さんの作品の特徴として、作品間のリンク設定があります。他の作品で出てきた登場人物がさりげなく話に入ってきたり、同じ名前の別キャラクターという形で登場したりします。
「死神の精度」も6つの賞の中にリンクが存在します。これも、伊坂さんの作品が愛されている理由の一つでしょう。みなさんも他の伊坂さんの作品を読んで、探してみてください。

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長くなりましたが、以上でレビューを終わります。
少しでも「死神の精度」の魅力が伝われば幸いですが、やはり、このレビューだけではなく、作品自体を読んでいただきたいと思います。
ここでは書ききれなかった魅力、自分だけが感じる魅力、色々あると思います。
みなさんも暖かい部屋で読書など、いかがでしょうか。
そうそう、この作品ももちろんメディアミックス展開されています。金城武さんが千葉を演じています。また、小西真奈美さんが映画中の役名である藤木一恵名義で歌手デビューもされています。映画の方も是非。


Auther:くろたん


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