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2011/01/15

こち駒やだニュース004:採用早期化防止、企業反発

こんなニュースあったらやだなという架空ニュースをお届けする「こち駒やだニュース」、第4号です。本件の元ネタはこちらの記事。

採用早期化防止 足並みそろうか」(NHK 2011年1月13日)
大学生の就職活動の早期化を防ぐため、日本経団連が、会社説明会などの時期を今よりも遅くする方針を決めたのに対し、大手商社などでつくる日本貿易会などは、さらに踏み込んだ対応策を打ち出すべきだとしており、今後、足並みをそろえられるかが注目されます。

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この問題に関しては、昨年、2010年11月に大手商社が、採用活動開始を、現行の4年4月から4年夏まで遅らせるよう提言して、企業から大きな反発を呼びました。

就職協定復活に異論噴出」(日経ビジネスオンライン2010年11月17日)
大手商社連合が、企業の新卒学生採用を遅らせる提言をした。だが、この提言に対して八方から異論が噴出している。グローバル採用が増える今、自由競争を望む声も上がる。

日本経団連の今回の方針は、採用活動開始は4年4月のままに保った上で、会社説明会などの「広報活動」の開始時期をこれまでより2ヶ月ほど遅らせて3年生の12月からとするものです。産業界としては、先の商社からの提案よりは受け入れやすいものと受け止められているものの、やはり会員企業が皆納得しているというわけではないようです。実際、外資系などもともとこうした取り決めに従わない企業も少なくないため、実効性のある決まりとなるかどうかは未知数です。上のニュースは、そうした現状をふまえたものです。

上記の日経ビジネスオンライン記事から、企業側の言い分をおおざっぱにまとめると、
(1)優秀な学生を確保するためには早期に採用活動を行いたい
(2)どうせ早晩形骸化する協定など最初から守りたくない
(3)就職活動があっても勉学はさして犠牲にならない
(4)仮に犠牲になってもそもそも大学教育に期待などしていないからかまわない
といったところでしょうか。

これに加えて、学生側の職業選択の自由の観点からの意見もありうるでしょう。在学中に企業で働いたりする人も考えられなくはないわけですから。歴史的な経緯というのもあります。採用活動の開始時期をそろえる合意は就職協定と呼ばれ、かつて広く行われていたものが次第に形骸化し、廃止されたという経緯です。そもそもこの種の合意はなかなか守られないものです。うわべだけとりつくろうような制度より、自由競争の方がよほど公平でわかりやすい、という意見にはそれなりに説得力があります。

就職活動のために勉強がおろそかになるという大学側の意見も、「それなら落とせばいいじゃないか」という批判に対してはちょっと苦しい立場といったところでしょう。大学の社会的評価の少なからぬ部分が出身学生の就職先で評価される現状で、就職活動にかまけて勉強しない学生を落とすことは実質的に難しい相談だからです。

以上をふまえた上で、個人的に思うところを述べます。

上に挙げた「企業側の言い分」のうち、(1)及び(2)は、企業側の理屈としてはまあ理解できなくもないのですが、(1)については、正直よくわからないところもあります。早期に採用活動を開始すれば優秀な人材を獲得できる、というのは本当なのでしょうか。もちろんそうしたケースもあるでしょうが、早く採用しないと優秀な人材を逃してしまう、という考え方は、あたかもバーゲンセールのワゴンに殺到するのと似ていて、学生を商品扱いするような印象を受けてしまいます。

もちろん学生は人間ですから、自分の意志をもって行動します。早期に内定を獲得した優秀な学生の中には、その後もさらに望ましい条件の就職先をめざして就職活動を続ける者が少なからずいるはずですから、優秀であればあるほど、逃げられる確率は高いのではないでしょうか。また、早期に採用活動を終えてしまうことで、採用できたかもしれない優秀な学生を逃してしまうこともあるのではないでしょうか。POSデータが逃した顧客ニーズをとらえられないのと同様、採用した学生が優秀であったかどうかは、採用できなかった学生が優秀でなかったことを意味するとは限りません。

多くの私立大学では、入試を何度にも分けて行います。それは、受験生に多様な受験の機会を提供するという意味もありますが、その裏返しで、大学側としても、多様な学生を受け入れるチャンスを得たいと考えるからです。実際に入学した学生の中で、どの試験を受けた学生がその後いい成績を収めるかなどについていろいろ調べたりして、どうしたらいいか考えていますが、さまざまな要因が考えられ、いちがいにはいえないことが少なくありませんし、いつも同じ法則があてはまるとも限りません。つまり、早い段階の試験を受けたから優秀、という関係があるかどうかは、なかなかよくわからないというのが現状です。不勉強でよく事情を知りませんが、企業では、そうした検証を行っているのでしょうか。大学と比べて企業はよりロングスパンでしょうから、何が「優秀」かという点を含め、検証はより難しいはずです。わからないまま「早く早く」と主張する態度は、あまり合理的ではないような印象を受けます。

(3)については、かなりはっきり、支障があると思います。大学教員であれば、ジレンマに直面し、「妥協」を迫られる場面を多々経験しているはずです。そうした「妥協」をしない教員の方もいるかもしれませんが、その場合は他の教員にしわ寄せがいくだけの話です。いずれにせよ、少なくとも大学側としては、就職活動の早期化が大学教育に対してそれなりの支障をもたらしているという認識は共通しているのではないかと思います。

企業の方が支障を感じないというのは、おそらく(4)によるものでしょう。が、これについては、企業側の態度に、若干の矛盾を感じる部分があります。例として、上記の日経ビジネスオンライン記事から引用します。

「そもそも、企業は国内大学の『学業』にさほど期待していない。『学業優先』は建前で、『変な協定を押しつけられたくない』というのが本音だろう」と、HRプロの寺澤康介社長は分析する。

「国内」と限定しているあたりがなんとも痛烈ですが(海外大学はいいというわけですね)、「学業に期待していない」といった類の意見は実際、企業の方などからよく聞かれます。私も企業でリクルーターや面接担当をしたことがありますが、そうした際にも聞きました。大学を出て入社してきた社員が、知識の面でも、その他の能力(最近は「人間力」などという気味の悪い用語もあるようですね)の面でも、そのままでは役に立たないということなのでしょう。「どうせ企業で鍛え直すから変な知恵などつけなくていい」とまで言う人もいます。

ならば、とここでちょっとした暴論を出してみましょう。ならば、なぜ実際の採用を大学卒業まで待つのでしょうか。どうせ期待していないなら、内定したらすぐ採用して、大学など中退させててしまえばいいではありませんか。かつて三洋電機創業者の井植歳男氏は、自分が小学校卒で働き始めたことについて、小学校中退で仕事を始めた松下電器創業者の松下幸之助氏に比べて仕事を覚えるのが遅すぎた、と言われたという有名な逸話があります。また、今はちがうのでしょうが、かつて外交官の最高の学歴は「東大中退」だったという話を聞いたことがあります。在学中に外交官試験に合格して大学を中退するのが最も優秀な人材のキャリアパスである、というわけです。自ら優秀な人材を見極め育成できるなら、企業も学生の卒業を待つ理由はないはずです。大学教育で「無駄」な知恵をつける前に、企業で一から教育すればいいではありませんか。

中退では転職のときに困る、というご意見もあるかもしれません。今や転職はそれほど珍しくないわけですから、そのときに卒業資格がないと、転職先の選択の幅を狭めてしまうという場合も考えられましょう。企業が採用時にその学生の将来の転職の可能性を配慮するとはあまり考えられませんが、もしそういう配慮をするのであれば、同じ理由で、大学教育をきちんと受けられる環境を作り出すのにご協力いただきたいところです。企業の中には、きちんと大学教育を受けた者を採用したいというところもあるでしょうから。

中退までいかなくても、早く優秀な学生を確保し、かつ就職活動が学業の邪魔にならないようにする方法はあります。いっそ開始をずっと早めて、大学入学前にすればいいのです。入試の結果がわかっていれば、その学生の学力は推定がつくでしょう。大学教育に期待せず、入試による大学の選別機能にのみ価値を見出すなら、大学教育を受ける前の段階で採用しても支障はないはずです。後は4年間じっくり待ってというわけですが、4年後の景気などわからないから4年前に採用決定するなど無理、というご意見もあるかもしれません。しかし基本的に、日本企業の新卒採用はその後数十年間にわたる「投資」であるはずで、そこまで先の景気を見通してなどいないでしょう。そういうスパンの話で採用決定が数年前倒しになったとて何の支障があるでしょうか。そういう際の調整のために非正規雇用をせっせと増やしてきたのではないですか。

しかし一方で、「即戦力」を大卒者に求める企業の方もいます。大学教育がそうした要請に応えていないというこれまた痛烈な批判であるわけですが、実際のところ、就職活動は3年生の夏休み明けから始まっていて、いざ始まってしまうと学生たちが浮き足立ってしまうため、大学でまともに教育ができるのは4年間のうち半分強しかありません。仮に「即戦力」をめざした教育を行おうとしても、これではそんな時間はとれません。まさか企業の方は、学生たちが自社だけに応募しているなどと思っているわけではないでしょう。ある企業を志望するということは、業界や当該企業を分析し、志望企業に合わせたエントリーシートやら何やらを用意するという作業をしなければならないわけで、それを数十回繰り返すことがどれほどの時間を要するのか、想像できないことはないはずです。

もし、即戦力となるための充分な教育を大学に求めるのであれば、そのための時間を大学が確保できない状況を作り出し、4年間かけた教育の成果をみる前に採用を決めようとするのはどうにも矛盾した行動のように思われますがいかがでしょうか。

大学教育に何かを期待するのかしないのか、企業がどちらを望むのかをはっきりしていただければ、大学側もぐっと対応がしやすくなるでしょう。期待するなら、4年間学生にきちんと勉強できる環境を用意することにご協力いただきたいし、もししないなら、大学を卒業するかどうかに関係なく採用していただきたいと思います。もちろん、この問題の責任がすべて企業にあるなどというつもりはありません。大学側にも努力しなければならないところは多々あります。社会全体として考えていかなければならない部分もあるでしょう。ただ、それでもやはり、企業の方々に期待したい部分はあるわけです。

もとより「正解」が決まっている話ではないと思います。少しでも考えるきっかけになればと思います。学生たちにとって、社会全体にとってよりよい方向に向かうよう、今後も考えていきたいと思います。


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