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2011/03/02

こち駒やだニュース008:入試問題ネット投稿で厳正対応

こんなニュースあったらやだなという架空ニュースをお届けする「こち駒やだニュース」、第8号です。本件の元ネタはこちらの記事。

京大の入試問題の一部がネット上に投稿 試験時間中」(朝日新聞2011年2月27日)
京都大(京都市)で25、26日に実施された入試の2次試験で、文系の数学と文・理系共通の英語の試験問題の一部が、試験中にインターネット上の掲示板に投稿されていたことがわかった。受験生が携帯電話などから投稿した可能性もあると見て、大学が調査している。掲示板には、解答として書き込みも寄せられていた。

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実際は京都大学だけでなく、早稲田大学、同志社大学、立教大学の4校について、入試問題が試験時間中に「Yahoo!知恵袋」に投稿され、試験時間中に回答がついていた、と報じられました。その後この件、メディアで大騒ぎになっていて、NHKテレビなどでは、ニュージーランドの大地震で必死の救援活動が行われているニュースも、リビアの民主化をめぐる事実上の内戦に関するニュースも、国の予算案審議に暗雲が立ち込める緊迫した国内政治情勢もすべてすっ飛ばして、この問題を連日トップニュースとして扱い、微に入り細に入り報道しています。他でも似たような扱いです。

おかげで、かどうかわかりませんが、大学側は警察に被害届を提出し、サイバー犯罪捜査で定評のある京都府警が乗り出して、この記事を書いている時点では、すでにネット投稿した携帯電話の契約者が特定されています。契約者は京都大学の受験生(の保護者)だそうですから、何らか関係があるのかもしれません。それは早晩明らかになるでしょう。私個人としては、今でも、問題の漏洩自体はカンニングが目的ではなかったのではないかという疑いを少し持っていますが、そうしたことよりも気になるのは、なぜこの件がこれほど大きく報じられているかということです。

もちろん大学入試で不正があったとすれば大学にとって一大事だというのは事実ですが、国全体のトップニュースとして扱うほど大きな問題なのかというのは、個人的にはかなり疑問に思います。一部では、携帯電話を使ってネット投稿し、ネット経由で回答を募るという、これまでみられなかった手口が衝撃的だったとか、そもそもマスメディアの人たちはネットがきらいだからネットが悪用されるニュースを好んで報道するのだとか、あるいは他にもいろいろいわれているようです。そうした推測の真偽はわかりませんが、バランス感覚として少々おかしいのではないかという印象は、少なくとも私の身の回りでは、大学関係者に限らずけっこう広く共有されているように思われます。

バランス感覚ということでいうと、今回の大学側の対応にも、少し気になるところがあります。被害届の正確な内容はわかりませんが、不正行為によって大学の正常な業務が妨害されたといった趣旨かと思われます。刑法では第233条の偽計業務妨害罪(信用既存及び業務妨害)になるのでは、という話も出ているようですが、要するに業務の邪魔をしたから犯罪だ、ということなのでしょう。まだカンニングが行われたと判明したわけではありませんが、もしカンニングだとしたら大学として許せない行為であるのはまちがいありませんし、仮にカンニング行為ではなかったとしても、これによって入試業務の円滑な遂行が妨げられたのは事実です。

とはいえ、こうした行為ですぐに被害届をだすという姿勢には、正直なところ、若干の疑問を抱かざるを得ません。もちろん刑法第233条(もしこれが該当するとすれば)には、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」とあって、そのまま読めば業務を妨害すれば即これに当たるかのようにも読めますが、実際には無制限に適用されるわけではないはずです。実際、大学受験におけるカンニング行為は、そう頻繁かどうかは別として、これまでもそれなりの回数発生していたはずですが、それらは警察には届出られなかったかと思います。

それはなぜか?もちろんいろいろな理由があるでしょうが、つきつめれば、「そんなことは大学の中で処理してよ」ということになるのではないでしょうか。試験で不正行為がないかどうか監督し、不正があればそれに対して処分を下すのは大学の「通常業務」の範囲内だと思います。それが業務妨害というなら、授業中の私語も業務妨害ですし、遅刻したり教科書を忘れたりして職員室で怒られるのも業務妨害になるという議論もなりたつでしょう。では今回なぜ被害届が出されたのか?これも外部からは推測するしかありませんが、要するに大学側が問題の漏洩(つまり不祥事です)を察知しながら、というか世間に察知されながら、自分たちでは対処することができなかったからだと思います。世間から自分たちに寄せられるであろう批判、試験監督が甘かったという批判を、「自分たちは被害者なのだ」という主張で切り抜けたわけです。そのために、被害届が必要だったのではないでしょうか。

被害届を出した大学がずるい、と言いたいのではありません。しかし、学内のトラブル(これは「学内」のトラブルだと思います)に安易に警察を入れることに対しては、もう少し慎重であってもよかったのではないか、と思わなくもありません。大学の自治などということばは最近はあまり聞かなくなりましたが、それでも歴史ある大学ならその精神の片鱗ぐらいは残しているでしょう。もっと大事なのは、大学が教育のための機関だということです。受験生はまだ「学生」ではありませんが、「学生」となることが期待される存在ではありますし、広い意味では入試も「教育」の一部といっていいでしょう。

そういう場で、学生(なり潜在的な学生候補者たる受験生)に対し、学校側が、「業務を妨害したら通報するぞ、そうしたら逮捕されるぞ」という態度をとることは、教育者としていかがなものでしょうか。もちろん、たとえば暴漢がナイフをもって学内に侵入してきたとか、即警察の出動を要請すべきケースもあるでしょうが、今回のケースは、使った手法がこれまで知られていなかったという以外は、通常学内で処理してきた類の問題であるはずです。そもそも、もし受験生本人が受験会場で携帯電話等を使って問題用紙を撮影し、ネットに投稿し、寄せられた回答を見て答案に書きこむ、などという一連の行為をしていたのだとしたら、当該会場の試験監督員たちが誰一人として気づかなかったことの方が不思議でなりません。別に試験監督員が悪いから受験生は悪くないなどというつもりはありませんが、もし試験監督員が「きちんと」仕事をして、不正行為をした受験生を発見していたら、その場で処分が下され、「犯罪者」(正確には「容疑者」ですが、日本の社会では事実上かなり似た扱われ方をされます)にされることはなかったでしょう。

私はまだ教員としてそれほど長いキャリアをもっているわけではないので、こんな大きなことをいえる立場ではないのかもしれませんが、そうした不遜さに対する反省をした上でもなお、一教員として、4大学のとった対応には、納得がいかない部分があります。

ちなみに、では今後どうするかというのは、この事件が残した大きな問題です。たとえばこのような記事もあります。

入試携帯対策、大学側戸惑い…兵庫」(読売新聞2011年3月2日)
この日に5学部の入試を行った武庫川女子大(同)では、試験前に目連淳司・入試センター長が試験監督者に「携帯の不正使用がないか、監督をしっかりしてほしい」と注意した。 同大広報室は「携帯電話を預かるといっても、厳密にやろうとすればボディーチェックもしなければならない。さすがにそこまで手が回らない」と頭を抱える。

上記のマンガはこの話をネタにしたもので、もちろん冗談ですが、冗談ではすまない部分もあります。不正を防ぐための措置をとるのはもちろん大事ですが、そのためにかかるコストや手間の増大の影響は、大学側だけでなく、不正をせず正々堂々と受験した受験生たちにも及びます。しかも、どこまでやれば充分というものはありません。昔の中国の科挙では試験前に身体検査をしていたそうですが、それでも襦袢の裏にびっしりと字を書きこんだものが残っているそうです。新たな対策は、新たな手段を生むでしょう。もちろん不正を防ぐためにさまざまな努力をするのは大学として当然だとは思いますが、それですべて解決できると考えるのは甘いと思います。抜本的には、一発勝負の試験のみに依存しない選抜システムが必要なのでしょう。それらは現在AO入試、推薦入試などのかたちで実装されていて、必ずしもうまくいっているとは限らない状況のようですが、結局オールマイティの手法はないということなのだと思います。

この事件に対するメディアの反応をみていると、よく食品安全などの分野でみられる「ノーリスク症候群」と同じ根の発想を感じます。コスト意識なく、無制限の「安心」を要求する心理です。そうしたものの積み重ねが今の日本をとても住みにくく、高コストで、窮屈なものにしています。その点では確かに大学も「被害者」かもしれません。カンニングを許容すべきなどというつもりは毛頭ありませんが、私たちはもう少し、リアリスティックになった方がいいのではないか、とも思います。

※追記
どうも京都大学は被害届を出していない、ということのようです。一説には、被害届を出そうとしたが警察が受理せず偽計業務妨害で捜査を始めたとか。真相はやがてわかるのでしょうが、もし警察が被害届なしに独自に捜査することにした、というのであれば、さらに問題は深刻であるように思います。

※さらに追記
毎日新聞報道によると、被害届については、京都府警が「既に大学側から受けている相談内容について、3日中に改めて被害届として受理した」ようです。

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コメント

真面目な話、罪と言うより、本人の精神的ケアの方が重要になる内容だと思います。
若いですし、本人の将来考えたら、報道しない選択肢すらあるような気がします。

今回、あったことより、事件の取り扱いの方に物凄い違和感を感じます。
悪いことですが、いわゆる犯罪として声高に語られるような事とは思いません。

...私の感覚が変なんですかね?

投稿: luckdragon2009 | 2011/03/04 00:38

カンニングはよくないことですよね。でもなんで未然に防げなかったのでしょうかね。

投稿: 個別塾成績アップゼミ | 2011/04/22 13:50

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