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2013/05/19

「電通に就職したい」という学生からメールが来たので

職業柄、大学生の就職活動に関する相談を受けることは比較的よくあるのだが、先日、「電通に就職したい」という学生からメールをもらった。ふだんなら「そうですか。なかなか難しいでしょうけどがんばって」みたいにさらりと返すのだが、今回はちょっと長く書いてみた。就活生の皆さんのご参考になるかどうかはわからないが、一般性のある話だと思うので、個人が特定できる情報は除いてここにも載せてみることにする。

長い回答を書いたのは、この学生が、「駒澤大学から 電通への就職は極めて難しいのでしょうか?」と聞いてきたからだ。一般論とかこれまでの実績みたいな話ならともかく、これから就職活動に臨もうとする学生がこういう質問をするというのはちょっと放置できない、と思った。もちろん批判したいという話ではなく、そういう考え方は改めた方がいいという教員モードのお話。ややポジショントークめいた意見でもあるので、「正解」なのかどうかはわからないし、引き合いに出された電通にもご迷惑な話だとは思うが、ここは社名を出しておかないと話がわからないと思ったのでそのままにした。平にご容赦。

かいつまむと質問の趣旨は、

・駒澤大学から 電通への就職は極めて難しいのか?
・過去に駒澤大学から電通に就職した先輩はいるのか?

の2点。まあメディアの学部なのでメディア業界の雄である電通に憧れる気持ちはわかる。とはいえ、そう簡単に入社できる会社でもない。質問は、そういう実情をふまえてのものだろう。

というわけで以下が回答。一部加筆修正したところもあるが概ねこのように書いた。

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山口です。

ご存知でしょうが、電通という会社は就活学生にとって日本でも有数の人気企業です。毎年200人程度の新卒学生を採用しているとはいえ、応募者は1万人を超えるはずですから、一般論的にはかなり「難易度」が高いとされている就職先かと思います(注:応募者数は想像なので不確か)。

以上を踏まえた上で、ご質問に対する私の答えですが、「駒澤大学から電通への就職は難しいのか」という問いは無意味です。電通が採用するのは個々の学生であり、大学ではありません。東京大学や慶應義塾大学だから採用するというわけでもありませんし、駒大だから採用しないというものでもありません。結果として、いわゆる偏差値の高い大学の学生の割合が高かったとしても、それは採用された当該学生を電通が認めたからであって、「そういう大学」出身者だからではありません。厳しい言い方をすると、少なくとも電通は、こういう質問をする人を採用する会社ではないと思います。

事実ということでいえば、駒澤大学から電通に就職した人はいます。他学部でもいたと思いますし、GMS学部出身者もいたように記憶しています(注:後で確認したらこの点は誤り。資料によると駒大経営学部から電通に入った人はいるが私が所属するGMS学部から入った人はいないようだ)。詳しいことはキャリアセンターに聞いてください(まずそのくらいは自分でやりましょう)。もちろん大学で何を学んだかは重要な要素でしょうが、就職はあくまで本人の問題です。電通に就職できてもできなくても、それを大学のせいにする必要はありませんし、しないでください。

問われているのはあなたご自身であり、あなたがこれまで何をやってきたか、何ができるか電通で何をやりたいか、ということです。それを電通が魅力的と評価すれば採用されるでしょうし、されなければ採用されないでしょう。採用された駒大出身者はそれをうまく説明し評価されたのだと思います。仕事をする現場では、どこの大学を出たかなどということはまったく関係ありません。大学受験ではないので、人を大学入試の偏差値で判断する価値観からは離れてください。それは言い換えれば就職先を偏差値で輪切りにする発想でもあり、電通にも他の会社にも大変失礼です。

なぜ電通に入りたいのでしょうか。電通のことをどのくらい知っていますか?他の会社のことをどのくらい知っていますか?広告業界には数多くの会社があります。電通でしかできない仕事はそう多くはありません。優秀であれば、転職で電通に移る機会もあるかもしれませんし、なくても電通がやっているのと同じような仕事ができる機会はあるでしょう。なければ自分で機会を作ればいいだけです。そのぐらいの人が求められる業界です。そもそも電通にだってつまらない仕事は山ほどありますし電通以外の会社や広告以外の業界にも面白い仕事はたくさんあります。電通に限らず、○○に入社すれば黙っていてもやりがいがある仕事が降ってくるだろうという発想であれば即刻捨てた方がいいと思います(注:電通の皆様には申し訳ない。「つまらない」仕事とは、いわゆるかっこいい系の仕事以外の地味な仕事を意味する、ぐらいに思っていただければ)。

駒大から電通に入れるかどうかを悩む暇があったら、自分を磨いてください。学生ですからもちろん勉強はすべきですが、それ以外でも、真剣に打ち込んで何かの成果を出すことは、企業にとってそれなりの意味があります。一生懸命働いてくれるかどうか、責任感をもって取り組み仕事をやり遂げてくれるかどうかを推し量る材料になるからです。学生に時間的余裕が与えられているのは、そうした経験を積むために社会が与えているチャンスです。逆に、電通に入れないなら努力しないというような考え方であれば、電通に限らずどこの会社でも採用したいとは思わないでしょう。

今はもう3年だから何か成果を出そうとしても間に合わないと思うなら、新卒でなく転職で入る方向で考えてみればいいでしょう。そのために今からいつまでに何をしなければならないか考えてみてください。本当に電通で仕事をしたいなら、新卒で入社しなければと考える理由はないはずです。仮に私が「駒大から電通は無理だ」と言ったらあきらめますか?そういう考えなら、最初から考え直してみる方がいいでしょう。

電通に限らず、広告業界や周辺業界、あるいは他の業界も含めて、どのような企業があり、どのような活動をしているか、幅広く調べてみてください。社会を幅広く知るのは就職活動の基本です。その上で志望先を考えるといいと思います。その上でどうしても電通にと思うなら、迷う必要はありません。ただそうした熱意も先方にとって価値を感じるものかどうかは別問題です。電通以外ならどこ?は必ず考えておくべきでしょう。

最後にもう1点だけ。仮に電通に入れなかったとしても、それはあなたが単に電通の求める人物像に沿わなかったというだけの話であり、人として劣っているということにはなりません。人には多様な属性があり、就職先や職業、収入や社会的立場だけでその価値を語るのは愚かなことです。同様に、電通に採用されたとしても、人として優れていることにはなりません。

この点をはき違えている人は大人も含めたくさんいますが、とても恥ずかしいのでぜひ気をつけましょう。あなたがそうだというのではありませんが、いわゆる有名企業を志望する学生の中には、口に出しては言わなくとも、就職先企業のブランドで自分の価値を人に認めさせたいからという動機の人がよくいます。でも自分の価値を他人の評価に委ねるのは空しいですし、自慢のタネに使われる会社の方もいい迷惑です。

あれこれ書きましたが、あまり考え込む必要はありません。最近は就活がブームのようになっていて、「自分に合った会社」を探すことを強調する人がたくさんいますが、個人的には、もう少し気楽でいた方がいいと思います。就職は人生の方向性に大きく影響しますが人生の価値を左右するほどのものではありません。人間はけっこう適応力の高い生き物ですし、選択の機会はその他にもたくさんあります。経験を積むにつれて開けてくる道、見えてくる道もあります。

がんばってくださいね。

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コメント

初めまして。

 的確かつハートフルなアドヴァイスに敬服いたしました。

 さて、件の学生さんは電通を希望されているとのことですが、お役にたてるかわかりませんが下記の横浜市議さんもいらっしゃいます(下記URL参照)。

 東大を出られて電通に就職されましたが、辞められて先の横浜市議選(2011年)に挑まれて当選されました。

 貴大学からの就職ルート情報を得るのには役立たないかもしれませんが、電通での仕事や「(学生さんから見て)羨望の職場」を捨ててまで転職する理由などを「元職員」のお立場だからこそフランクに聞くことができるかもしれません。

http://www.yukiss.jp/guide

投稿: 三國博貴 | 2013/05/20 11:23

素敵な記事でした。
もっともっと、早くに読んでおきたかったです。
私の父は学歴や収入で人間の価値を語る人でした。同級生にも沢山いましたし、大学受験の予備校の講師もそうでした。
私もそんな考えにどっぷり浸かっていました。
そして、いつしかそういった考えが自分の首を絞めるようになり、深く落ち込み、色々なことを考えた後、やっとそのことに気付きました。

ネット上では特にそういった歪んだ価値観は多く見られるのですが、この記事を読んで、心がぱっと明るくなるような、解放されるような気持ちを再度思い出させていただきました。
ありがとうございました。

投稿: | 2013/12/31 01:41

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